シルバー産業新聞

通所介護「ピンポンデイハッピー渋谷」(神奈川県大和市)

卓球で楽しく機能向上・地域交流のきっかけにも

 平成29年6月10日号掲載

 

 

ピンポンデイハッピー渋谷(神奈川県大和市)は「卓球」をコンセプトに掲げるデイサービス。石井直樹代表は「楽しく運動できるようにと始めた取組みだが、コミュニケーションのきっかけにもなるなど、予想以上の効果を生んでいる」と手ごたえを話す。

 

どんな人でも楽しめる

 

同事業所に入ると最初に目に飛び込んでくるのは、競技用と同じ大きな卓球台。ラケット20本と練習用の機械も備えており、雰囲気は本格的な卓球場だ。石井代表は開設当初を「事業所名にピンポンとついていることもあいまって、『こんなところに卓球教室ができたのですか?』とよく誤解された」と振り返る。

 

同事業所で機能訓練の一環として行っているのが「卓球療法」。反射神経やリズム感、動体視力などを使う卓球を通し、運動機能の向上を図る。「最大のメリットは楽しみながら高齢者に運動を継続してもらえること」(石井代表)。また、上達がラリーの回数など目に見える形で現れるため、やる気にもつながるという。

 

同事業所の平均要介護度は2.3だが、認知症の割合は高く、車いすの利用者もいる。重度の人が参加するには、卓球は一見ハードルが高いように思われるが、同事業所スタッフで日本卓球療法協会認定資格の「卓球療法士」を持つ山田眞由美さんは、「ちょっとした工夫を凝らせば、どんな状態の人でも楽しめる」と説明する。

 

例えば卓球台を囲んで座り、ネットをくぐらせるように球を転がしあう「卓球バレー」は、さまざまな状態の人が一緒に楽しめると好評。また手にマヒがありラケットを握れない人は、軽くて持ちやすいティッシュの空箱や、ペットボトルなどを代用し、ラリーに挑む。球が弾めば会話も弾み、最中は笑顔が絶えないという。

 

最初は自分にできるのかと不安がる人がほとんどだというが、「実はラケットを握ったことが一度もないという人はあまりいない。こわごわやってみたら意外とできて、『そういえば昔温泉に行ったときは、よくやっていたな』と思い出を懐かしむこともある」と石井代表。実は自身も卓球初心者で、同事業所での取組みを通して卓球にはまった1人だという。

 

実際に同事業所で卓球の楽しさに目覚め、QOLが劇的に改善した利用者も。Iさん(当時67歳、男性)は、脳梗塞による右半身マヒのため要介護2の認定を受け、リハビリ特化型デイに通所していた。しかし単調な機能訓練に馴染めず、閉じこもりがちに。初めて同事業所に訪れた際は、ラケットを握れず、固定するためにゴムバンドで巻きつけなければならなかった。

 

元々卓球が趣味だったIさんは、「これなら楽しいし、頑張れる」と運動に励み、約半年で要支援2まで改善。予防サービスは提供していないため、同事業所の利用を終了した。

 

しかしIさんの熱は冷めず、現在はボランティアとして通い、他の利用者への指導などを行っている。「最終的な目標は介護保険を卒業して、職員として雇ってもらうこと」と意気込む。

 

住民からの信頼につながる

 

卓球を楽しんでいるのは利用者だけではない。夕方になると近くの小学校から「卓球をやらせてください!」と子供たちが遊びに来ることもしばしばだ。

 

 

また、営業終了後には、スペースを無料で開放し、住民との卓球を通した地域交流を図っている。中には他法人の介護・医療職の姿も。石井代表は「一緒に汗をかくことで、距離がぐっと縮まり、ボランティアの申し出や施設間交流などにつながっている。地域の信頼を勝ち得たのも、まさに卓球のおかげだ」と笑う。今後も、新しいプログラムの開発など、さらに取組みを広げていきたいと展望を語った。